筒上山のピークは風を遮るものがなく吹きっさらしなので、少し濡れた体には寒い。
祠の周囲の低い石垣の陰でで風を避けて休憩を入れる。さっきからちょとちょことおむすびを齧ったりチョコレートを齧ったりしている。ハードな歩きだから、時々エネルギー補給しないと歩けない。それに一度にたくさん食べると後が苦しいので、少ずつ食べるほうが正解のようだ。S君が、下りはどちらのルートを取ろうか?と言う。筒上から丸滝小屋までの下りには稜腺をそのまま下るコースと、一旦、南に戻ってピーク東側を巻いている巻き道経由の2つのコースがあるのだ。巻き道のほうは樹林帯の道らしい。時期にはキレンゲショウマが咲くようだ。Tさんも私もS君に任せるということに。
結局、稜腺伝いに下山することになった。
そして、そのコースは大正解だったのだ。
下り始めてすぐにルート東側の斜面にアケボノツツジがかなり咲き残っているのを発見。
登りではこれほど咲いている株は見なかったが、山の北側になり、涼しいので花も遅いのだろう。
ゴヨウツツジと違って、アケボノツツジは葉っぱを展開する前に花を咲かせる。これもS君の受け売りだが、アケボノツツジは一つ一つの花がてんでばらばらの方角を向いて咲くのだとか。なるほどそういわれて見直すと、どの花の向きも何の統一性もない。
そしてアケボノツツジの直ぐ傍にはコヨウラクツツジが咲いている。つつじの仲間のオンパレードだ。コヨウラクツツジは去年5月に笹ヶ峰の山頂直下で見かけて撮影したけど、ピンボケだったので、今日は何とかまともに撮影したいと思ったが、やはり半分はピンボケに終った。あ、そうそう、花は咲いてなかったが、サラサドウダンやコメツツジも木だけは見かけたから、この山には8種類ものツツジ科の花が咲くのだ。
ルートは少し岩が露出したような道だが笹倉から筒上に至る道に比べるとはるかに歩きやすい。これはいわゆる一般ルートといえよう。途中、シロバナエンレイソウが二輪咲いている。この山で白花のエンレイソウガ咲いていたのは、私が見た限りでは、この場所だけだった。
今度はコミヤマカタバミが足元に咲いている。これも岩場に張り付くように咲いている。天候が悪いので花びらはほとんど閉じている。ここの株はほかで見るのよりかなり葉っぱが小さいように感じた。花が開いていれば、剣山で咲くものと比較できたのに、残念だ。
画像がピンボケで恐縮だが、イシヅチテンナンショウのようだ。笹倉湿原付近ではオモゴテンナンショウらしいのも見かけたが、普通のマムシグサに比べると草丈も低めで愛嬌がある。
時折アケボノツツジの木があって花はすでに終っているが落花した花が青々とした苔のに映えて麗だ。
少し下って樹林帯に出たところで、ルート右側になにやら踏み跡。辿ってみると、なんとムラサキエンレイソウが群生していた。
エンレイソウガ2,3本固まって咲いているのは良く見かけるけど、10本以上も固まって咲いているのは珍しい。しかもすべてムラサキエンレイソウだ。
ルート東側に広がるブナ林。林床部に生えているのはカニコウモリと似ているように思うが、確信はない。この辺りの風景は剣山の行場~一の森に至るコースとなんとなく似ている。
ピークから200m近く下ったと思われる辺りで再びヒカゲツツジを見る。やはり岩場で咲いている。このツツジは岩場にしか咲かないようだ。
ゴヨウツツジも開花した株が出現し始めた。見ているとゴヨウツツジは樹林帯の中の普通の土にも生えているので、山道の直ぐ傍らで幾らでも見ることができる。
ただ、天候が段々悪くなってきて、この頃にはほぼ小雨で周囲もかなり暗いので、撮影が難しい。私はピークで寒さを感じたので、雨具の上着を防寒着としてすでに着ていたが、S君とTさんも観念して雨具の上着を着込んだ。
ゴヨウツツジの白とミツバツツジのピンクが見事な場所があったが、天気がよければどんなに綺麗だろう。
ゴヨウツツジの見事な古木が登山道の直ぐ横に生えている。木だけを見ているととてもつつじとは思えなくて、まるで松か何かのように風格がある。そう言えば、去年、ゴヨウマツという名は樹肌がゴヨウマツに似ているから、ついたと聞いたのだった。あらためて納得がいく。この木は恐らく樹齢300年近いだろうとS君が言う。そりゃ風格も漂うわけだ。
しかし古木は総じて花つきが良くないようで、大きな木に花は数えるほど。それに比べて若い小さな木はびっしりと花を咲かせている。ミカンでも何でも木が古くなると実のつきが悪くなるというから、無理もないだろう。
かなり下ったところでブナの大木の前に見事なツルギミツバツツジが咲いていた。樹高4mぐらいあろうか。この日見た中で一番の大きさだった。ガスの中で咲いていると幻想的にさえ見える。女性が一人、三脚を立てて撮影している。S君が女性に話し掛ける。どうやら知人のようだ。四国の山では行く先々で知った人に会う(^^;)
やがて道は平坦な道になり、足元の悪い崖のような場所には鉄板でルートが作られている。崖の下側を覗き込んだらベニバナイツヤクソウのような濃いピンクの花が咲いている。しかし、近寄ることが出来ないので確かめる術がない(注、四国にはベニバナイチヤクソウは分布しないそうで、イワカガミの可能性もあり)
そんな道をしばらく歩いて4時10分、丸滝小屋に到着。ガスで展望がさっぱり利かないので、地図で岩黒山や石鎚の方角を確認する。小休止の後、最後の下りにかかる。
丸滝山の尾根を西北西の方角に下り、折りたたみのチャリをデポしてある番匠谷をスカイラインの出会いに下るのだ。これはまったくのやぶこぎのはずだったが、笹が倒れており、先人が通った跡がある。念のために前日に購入した最新式のコンパスの出番もなく、S君の的確な方向感覚で目的の沢に出る。後は沢伝いに下り、午後5時20分、スカイラインに出た。
S君はこの後直ぐにチャリで約3キロ下方にある車を取りに行ってくれた。待っている間にTさんと南アルプスの話をする。Tさんも去年の夏に仙丈と北岳に登られたそうで、コースや日程などを伺う。30分ほど待っているとS君が車で帰ってきた。チャリは一こぎもせずに下れたそうな。しかし、途中ずっとブレーキの掛け通しで、さすがに怖かったと言っていた。お疲れ様でした。
大幅に時間をオーバーしたせいで、下山後の温泉タイムもなくなったが、久々に良く歩き、充実の山旅だった。今年初のホトトギスの鳴き声も聞くことが出来た。何より、今まで私にとっては未知の山域だった山々を知ることが出来たのは大きな収穫だった。
帰りの車中は再び山々を見ながらのドライブ。四国の山の奥深さに感心していると、山頭火が「分け入っても分け入っても青い山」と詠んだぐらいだから、と、S君。
この句は何でも徳島と高知の県境を歩いて詠んだそうだ。ということは京柱峠辺りで詠んだのだろうか?03年秋に京柱峠はドライブしたが、あの辺りも背景としてはぴったりかも知れない。しかし、今まで石鎚山系は剣山系に比べて山の奥深さでは劣ると思い込んでいたが、どうしてどうして、この日の石鎚山系は十二分に山の深さを感じさせてくれたのだった。