北岳に登る、その9、山頂へ
キタダケソウを見た後、私とSさんはピークに行くことにする。Oさんは去年の仙丈での高山病のこともあり、今回はパスすると言う。昔、北岳のピークは踏んでいるそうだ。展望も今日のところは全然期待出来そうもないので、翌日もう一度登るときにご一緒するのも良いだろう。
午前11時過ぎ出発。コースタイムは登りが50分、下りが40分で丁度一時間半だから、12時半すぐには小屋に戻れるだろう。小さいバッグに地図、ペットボトル、非常食だけを入れて歩き始める。ガスっているのと風があるので前もって雨具を着用。
北岳は仙丈に比べるとキバナシャクナゲは少ないようだが、それでも山頂近くではちらほらと咲いている。画像中央のヤナギのようなのはヤナギ科のレンゲイワヤナギ。
岩のわずかな隙間に咲くクモマナズナだと思う。(勿論、後で調べた)とにかく山頂付近は白い小さな花が多くて、判別に苦しむ。
断崖絶壁と言うべきような場所にチョウノスケソウが身を寄せ合って咲いている。
ガスのせいでその断崖の下がどんな風なのか見えないのが残念だが、チョウノスケソウのあまりの可愛さに何枚も画像を撮ってしまった。
接写してみた。花弁はかなり多くて中には10枚を越えるものもある。草丈はわずか5センチもないだろう。
とにかく花が大きくて頭でっかち。葉っぱの緑色が濃くて、いかにも花に似合っている。チョウノスケソウという名は変わっている名なので、以前から名前だけは知っていたが、発見者の須川長之助の名から取っているそうだ。高山の白い花は地味なものが多いが、これは例外だろう。これだけインパクトのある花姿と名前なら一発で覚えてもらえるに違いない。
ガスのために水滴をたっぷりと纏ったシコタンソウ。そしてこのシコタンソウの株の向こうにもチョウノスケソウの葉っぱが見える。チョウノスケソウは葉っぱだけはあちこちで見かけるが、花を咲かせる株がどうやら少ないようだ。
肩の小屋から山頂までのルートはそのほとんどが岩場になっているが、迷いやすい場所にはペンキもあり、怖い場所や危険な個所は少しもない。
ピークのベンチの足の下でミヤマオダマキの株を見つけた。残念ながら花が開いていない。しかし、ミヤマオダマキも山で見るのはこれが初めてで、そして、この花にはもしかしたら会えるかな?と淡く期待していたのだった。
誰もいない。天下の北岳ピークを2人占めだ。Sさんが「北岳のピークに誰もいないなんて」と感激する。確か、去年の仙丈ケ岳ピークもそうだったような。シーズン前の平日はこんなに静かな山を楽しむことができるのだ。しかし展望が全然ないのが残念。展望がないところも、去年の仙丈ケ岳とまったく同じ。
稜線のほんの少し東に入ると風もなくて寒さも感じない。
ピークの東側直下にツガザクラとアオノツガザクラ、チングルマなどが咲いているのが見える。岩場を回りこんでいけば近くまで行けそうだ。
ツガザクラのほうはちょっと下のほうにあって足場が悪いので諦めて、すぐ近くのシラネアオイとアオノツガザクラを撮影する。
チングルマのほうは山頂に至るまで見かけることはなく、ここで初めて見つけた。この北岳では同じバラ科の小潅木のチョウノスケソウのほうがずいぶん多いのだった。秋田駒では谷一面のチングルマを見たけど、ここでは岩場の片隅にほんの数輪の花をつけているだけ。それでも、高山植物の代表みたいなチングルマも見ることが出来て嬉しかった。
なんだかんだで、気がつけばピークで30分も遊んでいた。12時半ぐらいに帰るといってあるのでOさんが心配されているかもしれない。そそくさと下り始める。
登るときに見つけておいたチシマアマナを撮影する。雨に濡れて花びらが半透明になっている。風の強いところで咲いているので、花が風にそよいで撮影し難いが何とか岩陰のが撮影出来た。ユリ科、チシマアマナ属。後方の黄色い花はミヤマキンバイだと思う。
花びらの裏に赤いラインが走っている。晴れているときはどんな表情で咲いているのだろう?草丈は5センチほど。
稜線上を歩き始めてから、ずっとこの灰緑色を下植物を見かけていてなんだろう?と思っていた。頂上からの下りで、ようやく花が咲き始めている株を見つけた。黄色い花が咲くようだ。
さきほどまでイワインチン?と思っていたが、今、調べなおしたら、どうやらハハコヨモギのようだ。南アルプスの北岳、千枚岳、それと中央アルプスの特産種らしい。
小屋までもう少しというところまで下ってきたら先輩のOさんの呼ぶ声が聞こえた。
どうやら私たちの帰りが遅かったので、心配して様子を見に来てくれたらしい。頂上でゆっくりしすぎてご心配をかけてしまったようだ。反省。ここではさすがに携帯も使えないのだ。
Oさんがイワヒゲが咲いていたからと、案内してくださる。イワヒゲは去年も仙丈で見るには見たが、個体数はずいぶん少なかった。ここ北岳でもあまり咲いてなくて、私も登りで見過していたらしい。
まるでヒノキの葉っぱを長くしたような長細い葉っぱが特徴的なので、幾ら花がツガザクラやコケモモとよく似ていても、これだけは見分けがつく。
2時間弱の山頂散策はガスに巻かれながらも、ほとんど誰にも会うことなく、ほんとにじっくりと花を見ることが出来て、楽しかった。小屋に帰って、もう一度コーヒーとクッキーでストーブの周囲で暖まる。
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